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月刊・京の舞妓さん 11月号【3】/2012年 - 舞妓倶楽部
今回舞妓変身のモデルを務めてくださったのは、京都在住の芸大生・本田直美さん。大学では現在、ファッションデザインを勉強中なのだそうだ。 「変身前のショットを撮らせていただけますか?」とカメラを向けて、シャッター切ることたったの3回。これ以...
Updated Date : 2017-08-26 08:20:31
Author ✎ maikoclub
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いざ、舞妓さんに変身!  ~髷、白塗り、仕上げに花簪を添えて~
今回舞妓変身のモデルを務めてくださったのは、京都在住の芸大生・本田直美さん。大学では現在、ファッションデザインを勉強中なのだそうだ。 「変身前のショットを撮らせていただけますか?」とカメラを向けて、シャッター切ることたったの3回。これ以上のベストショットはないだろうといえる一枚が撮れてしまった。さすがは大学のポスターやファッションショーなどでモデルとしても活躍されている人だ。透明感のある風貌に、まっすぐな瞳。これからどんな風に変身されていくのか、初っ端からますます楽しみになってしまった。
本物の舞妓さんは“おこしらえ”の際、結い直しがないかぎり、すでに地毛で結われた髷のお姿であることがほとんどなので、白塗りのお化粧からはじめられ、その後、着付けをされる。 舞妓変身の場合は、まず、かつらを付けるところからスタート。地毛の長さによって、半かつら、全かつらの二種類があるが、本田さんのように髪の長い人は半かつらを使う。かぶる前にあらかじめ残しておいた前とサイドの地毛をかつらに沿わせて、自然に仕上げていくのが『大みの』流だ。
こちらは、舞妓さんに出てから1~2年の間に結われる“割れしのぶ”という髷の半かつら。 年少の舞妓さんらしく、可愛らしさを存分に演出したスタイルで、丸く結い上げた髷の真ん中には、前からみても、後ろからみても、赤い鹿の子がちらりとのぞくように配慮されている。 かつらというと、ネットを被った上に乗せて「ハイ、終わり!」と思う方もいるようだが、『大みの』では、この段階からひと味ちがう。 地毛をひとまとめにしてネットに入れたあと、網タイツのような小さなネットの穴の一つひとつに細いコームの先を入れてほぐし、逆毛を立てるように、全体にボリューム感を出していく。 このようにしておくことで、頭に被せた時に自然な感じで馴染みやすくなるらしい。本田さんの小さな頭の上で寸分の狂いなくほぼ機械的に動く毛利さんの手さばきは、かつてイギリスで見たオーダースーツの職人たちの“手まつり”を彷彿させた。コームならぬ針を右手に、裾や袖ぐりの裏地に均等な縫い目を付けてゆき、凄まじい速度で縫いあげていく。どんな世界でも、どんなに小さなことでも、ひとつの道をとことん極めた人はやはり凄い。
地毛とかつらの髪をなじませるために使うのが、鬢(びん)付け油だ。 油というと、もとより液体状のものを想像することが多いかもしれないが、原型はこのとおり固形である。ちぎった欠片を手のひらで伸ばしていくと、その熱で徐々に溶けて、数分経てばオイル状になる。この油は舞妓さんたちが日々使われているもので、白塗りする前の顔や首元、背中にも、下地として塗っていく。
本物の舞妓さんと同じく、ピンクのお粉を水で溶いたものも事前に用意されている ベースが整ったあとは、いざ、白塗り。主役は、水で溶かした練り白粉だ。いわゆる日焼け止めやコンシーラー、パウダーなどは一切なく、お粉として使われるのは、白とピンクの二色のみ。これも舞妓さんとまったく同じで、手順も道具も至って、シンプルである。額の縁や目元にピンクのお粉をあしらうと、ほんわりとした雰囲気に…。
顔、胸元、首筋がおわると、背中、そして極めつけは舞妓さんのトレードマークである襟もとの二本足。この段階にくるまで手を動かしながらお話してくださっていた毛利さんの表情が、ここで一気に変わった。沈黙の中、全神経を刷毛の先に集中するのだ。緊張の瞬間だ。私は描く側ではなかったが、以前、舞妓変身を経験したことがあって、そこでもまた襟足にかかったとたん、メイクさんが口をつぐまれた。冷たい筆先が肌の上に走るのを感じた時、ごくりと生唾を飲んだことを想い出し、本田さんの襟足を眺めながら、少しだけぶるっと震えた。
舞妓さんはこの襟足の部分も合わせ鏡を使って自分で描かれる。つい先日、ある出たての舞妓さんに聞いてみたところ、“背骨を中心に、左右対称に半円の弧を描く”というのはなかなか難しいらしく、「片側がうまくいっても、もう片方が歪んでしもたり、最初のうちは、失敗、失敗、また失敗の連続で、とにかくもう、練習あるのみどす」とおっしゃっていた。 白粉を刷毛で塗ったあとは、スポンジで細かく叩き、肌になじませ、ムラの出ないように伸ばしていく。目尻に赤を入れ、マスカラをつけたら、今度は、紅。固形の口紅をカッターで削り、水で溶かし、紅筆で塗っていく。上下とも、本来の輪郭より少し内側に唇を形どるのが舞妓さんメイクの流儀である。
お顔の支度が整ったところで、さいごに、髷に花簪と銀のビラカンを挿す。花簪はいくつもの種類があり、その中から好きなものを選べるが、迷った時は、毛利さんに尋ねてみることをぜひおすすめしたい。お客さんの意向を聞き、その人の雰囲気をみながら、的確なアドバイスをしてくださるからだ。 今回、本田さんが選んだのは、白、黄、ピンク、薄紫…の小花に彩られたいかにも女の子らしい、それでいて雅なテイストのかんざし。毎月変わる舞妓さんの花簪同様、こちらも花びら全てが絹で作られている絶品である。お待ちかねの着付けは後編にて…。
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